『朝雲暮雨』:朝には雲となり、夕方には雨となって、あなたに逢いにゆきましょう。

楚の国・懐王が、外遊で高唐を訪れたとき、夢の中に「私は巫山の陽の、険しい峰の頂に住んでおります 巫山之女(ふざんのむすめ)と申します」と名乗る女が現れ、懐王の寵愛を受けました。

その女は、「朝には雲となり、夕方には雨となって、あなたに逢いにゆきましょう」と、言葉を残して消えてゆきます。夢から覚めた懐王は朝雲を見て、その女が女神であったことを知り、巫山の陽に女神の居場所となる廟を建立しました。

女神は、帝の末娘・瑤姫が姿を変えて現れたものでした。
瑤姫は、未婚のまま死去して、巫山に祀られたと伝承されています。この故事から、『朝雲暮雨』は、男女が契りを結ぶこと、あるいは男女の情交を意味する故事成語として、用いられるようになりました。
出典:『文選』宋玉「高唐賦」

現世では、姿を見ることも、言葉を交わすことも、触れることもできないふたりが、思い出を糧にして 残りの人生を生きてゆく、清らかで誇り高い恋の伝説です。

私は、故事成語の『朝雲暮雨』の伝説を知り、雨が夕方から降りはじめると、誰かの想いが、誰かに逢いにきているのだと想像するようになりました。
こうして私は、夕方から降る雨は、ただ静かに眺めていたくなるのです。

楚の国(紀元前11世紀223年)