『錬金術』とは、16世紀から17世紀にかけて、ヨーロッパでさまざまな産業や文化発展の底力となったものです。

『錬金術』という発想が生まれた歴史的背景として、ヨーロッパの国々が追い求めた黄金への夢があります。
15世紀のヨーロッパで、スペインとポルトガルが先頭に立ち、アメリカ・アフリカ・アジアへと新しい開拓のルートを広げてゆきました。
この大航海時代の開拓の根底にあったものは、アメリカなどから流入する金の魅力でした。

しかし
金を卑金属から変成することができたなら、莫大な「時間・労力・お金」をかけて新大陸まで遠征する必要がなくなります。
「時間・労力」を削減して「お金」を価値あるものにする。
この意識こそ、人々が長い期間にわたり追求し続けた『錬金術』への夢の根底にあるものでした。

『錬金術』の工程は
「溶解して凝固せよ」
「固定したものを揮発化し、揮発性のものを固定せよ」
という言葉に要約されるように、物質を変化させることにより、内部に隠された精気を摘出することが必要となってきます。
作業物質が何であれ、その物質を純粋化することが基本となっています。
物質が化学操作を通じて純粋になり、そこから精妙な原理を抽出するために、数々の実験が行われました。

物質を溶かしたり、揮発させるために欠かせないものは火であり、『錬金術』は火を操作する技術とも言えます。
『錬金術』の実験室の中心にある装置は「炉」であり、「炉」のない錬金術の実験室はないというほど、重要な装置でした。
火を扱うということで、そこに火災や爆発により多大な人的被害があったことも克明に記録されています。

錬金術とは「科学」を追求して止まない姿。
錬金術とは、人が幸せになる「技術」を追求して止まない姿。
そこに人的被害のリスクがあったとしても。

錬金術の実験には
「物質は完成するはずである」
「少なくとも物質は、より精妙な状態になる」という
信念と期待がそこにありました。

「作業物質が何であれ、その物質を純粋化する」
純粋化できてはじめて融合させることができる。
それが「人の心」であろうとも
純粋化できると信じたい発想に、私はただただ畏れ入るのです。

魔術から派生した『錬金術』の発想が
天文学
物理学
化学
地質学
医学
薬学
農学
神智学など
さまざまな分野で学問として独立し
現代の『AI』に継承されたことを思うとき
「魔術とは究極のテクノロジーである」という考えかたを、私は熱烈に支持するのです。

19世紀後期
『神秘主義的錬金術』の分野は「神智学協会」と「黄金の夜明け団」が継承者となり、「黄金の夜明け団」会員のアーサー・エドワード・ウェイト博士による『錬金術』に関する著書も多数発刊されました。
その集大成が『ウェイト版タロット』です。

『ウェイト版タロット』も、産業革命以降の大量印刷技術の恩恵を授かり、1909年にイギリスで創作された当時と寸分違わぬ状態で、2020年に日本で私が手にしています。
そういった意味でウェイト版タロットも、当時の最高水準『テクノロジー』の結晶だとも言えるのです。

そして『錬金術』は
絵画
音楽
舞踏
陶芸
工芸
服装
文学
写真・映画など
芸術の分野にまで
「性質の違うものを融合させる」という発想をもたらし、人々に新しいアイデアに挑戦する意志を授けてくれました。
『錬金術』の目指すものが「哲学者の石」(賢者の石)である所以です。

『人』と『テクノロジー』
有機物と無機物
二極の原理の、対極にあるものが融合すること。
性質の違うものをバランス良くコントロールする知恵。
『テクノロジー』の恩恵を授かり『人』の「時間・労力」を削減して「お金」=「物質・商品・作品」を価値あるものにする。
それこそが真の意味での『錬金術』なのではないかと私は思うのです。

大航海時代から今日まで
信念と期待が、人を動かして
意志が、夢を具現化してきました。
それを私は敬意を払って『錬金術』と呼びます。

 

『図説・錬金術』著者:吉村正和・発行:河出書房新社 2012.01.30 初版発行
『タロットの歴史』著者:井上教子・発行所:株式会社 山川出版社 2014.11.30 1版1刷発行

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