音楽家・細野晴臣氏のデビュー50周年を記念して
『細野観光 1969 – 2019』記念展が東京六本木ヒルズにて開催されました。
中学2年生 14歳のとき
偶然つけたFMラジオからYMO(Yellow Magic Orchestra)の楽曲が流れてきたことを、まるで昨日のことのように鮮明に思い出すことができます。
細野晴臣氏の音楽に出会い
その世界観に魅せられ
「Magicとは何だろう?エンターテイメント?それとも魔法?」
様々な想像を掻き立てられ
はじめて私が
自分以外の誰かの「世界を見てみたい」
と願った瞬間でもありました。
そして、その願いが39年の時を経て今秋 現実となりました。
『細野観光』の展覧会場では
1947-1968 ホソノ前史
1969-1973 憧憬の音楽
1974-1978 楽園の音楽
1979-1983 東京の音楽
1984-2004 彼岸の音楽
2005- 記憶の音楽
年譜ごとのコーナーが設けられ、それぞれの時代で起きた
現象・歴史・文化に
細野氏がどのように向きあい
どのような音楽を創造し
世界観を描いてこられたのか
楽器
玩具
ノート
書籍 などの
様々な展示品を通じて 細野氏の歩いてきた軌跡をたどる構成となっていました。
それら数千点の展示品があふれる展示室の一角で、私は『Mのノート』を見つけて息を呑みました。
そのノートは
《Mから始まる動態》”伝える”
《Mから始まる計測》”量の動き”
《Mから始まる薬》”幻覚性”
など、Mから始まる言語を編纂した細野氏オリジナル辞書の形態を成していましたが
その中の
《Mから始まる人物》欄に
“マグレガー・メーザーズ 魔術師. 黄金の夜明け団”
と書き記されていたのです。
マグレガー・メーザーズ氏とは
1888年3月1日にフリーメイソンの亜流結社「黄金の夜明け団」を設立し、後に会員となったアーサー・エドワード・ウエイト博士らに『ウエイト版タロット』を誕生させる機会を提供された人物です。
『Mのノート』にその名前を確認したとき、私は非常な驚きと同時に「それは然るべきこと」だとも感じました。
細野氏の見ている目で私も「世界を見てみたい」と願い続け、マグレガー・メーザーズ氏という、たった一人の人物にたどり着いた。
その結果として
私はタロットを読む人になっていたという感覚です。
14歳の私にランダムに撒かれた種子のひとつが枯れないで、53歳で発芽したイメージです。
ランダムに存在する情報やものの中から
何かひとつを選択するという行為はタロットの世界観に通じるものがあります。
私たちは人生という名前のフローチャートの上をたどりながら
「右を選ぶか」
「左を選ぶか」
「どちらも選ばないか」
「後戻りするか」
「新しい選択肢をつくるか」などの
選択の連続を繰り返し
いくつかある未来のパターンのなかのひとつを選んで生きていると定義されています。
しかし、ランダムに存在するものの中から
迷いなく選択するものがある。
迷いなく手にするものがある。
それは私たちが
時間と労力というエネルギーを惜しまず注げる稀有なものであり
時間差があったとしても、いずれ発芽するということを『細野観光』でようやく理解させていただきました。
そのエネルギーの糧となるものは
「あなたが見ている世界は、どんなふうに見えているのだろう。
あなたが見ている目で、私も世界を見てみたい」
その純粋な想いだけだったのではないかと私は回想するのです。
その想いを糧に
撒かれた種子にエネルギーを注ぎ
育みつづけ
やがて意志となり
具現化させていた。
その人を知りたい
そのものを理解したい
その想いが人生のフローチャートの選択肢を増やし
世界を広げていった。
なりたい自分になろうとしたのではなく
誰かに
何かに
薫陶を授かりたいと
その人に相応しい人になりたいと願ってきただけ。
「Magic 」とは
想像したものを意志をもって具現化すること。
私たちの誰もが持ちあわせている能力。
それはいつでも使えるし
時間差があったとしても発芽すると信じられるもの。
14歳のあなたにも
53歳のあなたにも
72歳のあなたにも
それはある。
『細野観光』に寄せて
細野氏からのメッセージの最後の一文は
音楽を介して全ての人々の可能性を信じてくださっているお言葉で締めくくられていました。
売れないことで敗北感を受えつける商業主義。
音楽主義はちがう。
そこの君、君はひょっとしてスゴイかもしれない。
売れなくてもネ。
細野晴臣
『細野観光 1969 – 2019』細野晴臣デビュー50周年記念展
六本木ヒルズ展望台 東京シティビュー・スカイギャラリー(六本木ヒルズ 森タワー52階)
2019年10月4日-11月4日
オフィシャルカタログ:2019年10月30日 第1刷発行・編者:細野晴臣デビュー50周年プロジェクト・発行者:三宮博信・発行所:朝日新聞出版