ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトは、1784年12月14日にウィーンのロッジ「善行(慈善)」においてフリーメイソン徒弟位階に参入し、1785年1月7日にロッジ「真の調和」において職人位階に昇進します。

モーツァルトは、フリーメイソンに加入したのち1791年12月5日に亡くなるまで活動に積極的に参加し、珠玉の名作『フリーメイソン葬送音楽』を作曲するなど、フリーメイソン作品を10点あまり残すことになります。

その中でも、彼の死の直前に完成した『魔笛』はドイツ・フリーメイソン運動の生み出した最高傑作であり、いかなる哲学的な著作よりも雄弁に、そして何よりも流麗な音楽の魔術的な力によって、フリーメイソンが一体どのような思想に基づくものであるかを示している。
吉村正和:『図解フリーメイソン』河出書房新社より

オペラ『魔笛』の主筋は、主人公タミーノがさまざまな苦難を乗り越えて、ザラストロの主催するイシス=オシリス密儀に参入するまでの過程が描かれています。
「沈黙の試練」
「火の試練」
「水の試練」
「空気の試練」
「死の試練」
それらを通過することは、啓蒙主義と自然科学の精神によって実現される人間の道徳的・理性的な完成を意味しています。

また、『魔笛』上演の際つねに舞台装置家の課題となっていたのは、夜の女王やザラストロの居城や神殿をどのように表現するかという問題がありました。
19世紀初頭のベルリンにおいて『魔笛』のその後の舞台装置を根本的に変革するデザインが登場します。
建築家でもあったカール・フリードリヒ・シンケルの考案した舞台装置「星輝く夜に三日月の上に現れる夜の女王」は、現代もなお人々の心を掴んで放しません。

フリーメイソンは、こうした音楽家・演奏家・声楽家はもとより、舞台装置・衣装・照明に至るまでスポンサーとして養成・育成を惜しみませんでした。
モーツァルトが、「借金を楽譜で返済した」という逸話も、これらのエピソードからきているのかもしれません。

ちなみに古式公認スコットランド儀礼では、劇場舞台で演じてられる『魔笛』(儀礼劇)を観ることによって、大勢のフリーメイソン加入志願者を一度に特定の位階に参入させる工夫をしていました。
『魔笛』の観客もまた、タミーノとパミーナの参入儀礼を観ることにより、フリーメイソンへの参入を疑似体験するのです。

私は十数年前に、福山市のリーデンローズで偶然に『魔笛』を鑑賞しました。
その後、明東館を開館する運びなったのでですが、偶然にしては面白いなと感じているのです。