駅を舞台した、印象的なラストシーンで終わる映画『男と女』。
幸宏さんは、「15歳のとき観て以来、どの場面で、どの台詞が出るか全て暗記したほど大ファン」だと語られています。

幸宏さんの、素敵なエピソードを知った中学生の私は、いつか大人になったら、映画のような恋愛ができるのかなと、ぼんやり考えていました。

そして、大人になって。
片想いの男性に「今夜、もう少し一緒にいたいです」と、その一言がどうしても言えなくて、駅の改札口で、焦りのあまり「映画『男と女』で、主人公が駅のホームまで彼女を見送りに行くのは、強制的に電車のドアが閉まって、物理的に離されないと、いつまでも名残惜しくて、別れることができないからですよね?」と①謎のクイズと②映画解説と③物理の話()をしてしまった私。

壊滅的に伝わるはずもなく、ぎこちない映画の会話が残っただけでした。
年齢を重ねたら、大人になれるわけではないし、原稿用紙100枚ぶん語るより、ただ微笑むだけで伝わることもある。あの頃の私に、そう教えてあげたいです。

そして、『セ・シ・ボン』の、読めないフランス語の歌詞カードのように、恋は何もかも明瞭にしなくていいと、私はようやく気づくのです。


高橋ユキヒロ:『セ・シ・ボン』
1978,2018 KING RECORD.,LTD.JAPAN

Un home et une femme 1966.05.27 フランス・監督:クロード・ルルーシュ・音楽:フランシス・レイ・主題曲:ピエール・バルー