「メレディスは
ディッキーだと偽っているトムの
どこか影のあるところに惹かれている。
だけど
実際本当のディッキーに会ったとしても
メレディスは彼に恋をしなかったと思うわ」

アンソニー・ミンゲラ監督・映画『リプリー』で、アメリカの名門資産家令嬢メレディス・ローグ役を演じた、女優ケイト・ブランシェットの言葉です。

20年振りに映画『リプリー』のパンフレットを開き、このコメントを見つけて、どこか安心する自分がありました、

映画が公開された当時
まだ若く未熟だった私は
メレディスは
「大資産家の御曹司という条件に好意を抱いたのではないか?」
と先入観から、メレディスの恋する表情を読み取ることができませんでした。

ハンサムで洗練され
人気者で
輝きを放つディッキー。

素朴でスレていない
静かな佇まいで
謎めいた影のあるトム。

作中でも
「太陽と月」に例えられる
対照的なふたり。

メレディスは
「月」に惹かれたのだなと
今なら理解できます。

タロットには
「明るく、洗練され、輝きを放つものに憧れる」という意味の札があります。
しかし
人は、常に明るく眩しい環境に置かれると、それらが「騒がしさ」となってストレスになると告げています。

メレディスは、連日のパーティーや音楽会など、過剰に華やかな社交界に辟易して、身分を隠してひとり旅にでます。
そのひとり旅の最中に、メレディスは(ディッキーと偽る)トムと出会い、彼の佇まいの中に謎めいた魅力を感じ取ります。
暗く静かで狭い環境が落ち着くように、メレディスはトムのなかに憩いの場所を見つけたのでしょう。

そして今、あらためて映画『リプリー』を鑑賞すると、ケイト・ブランシェットの演技に目を奪われるばかりです。
女優として役そのものになりきるのはもちろん、メレディスの生い立ちから、お嬢様にしかない無防備さや執着心の無さを、当たり前のように醸し出しています。
その言葉の言い回しや表情から、そもそも名門出身の彼女が、「昨日今日お金持ちになった御曹司」に将来性を期待するはずがなかったことにも気付かされます。

トムに惹かれたのは条件ではなかった。
トムそのものだった。

彼女の屈託のない笑顔は
“条件”付きの先入観を払い退け
「その人と一緒にいる自分が好き」と言えることは、なんて素敵なことなのかと教えてくれます。

なぜ私は映画が公開された当時、メレディスの恋する表情を読み取れなかったのか、後悔の気持ちすら湧いてきます。

いいえ、もしかしたら
タロットを読みはじめたからこそ
読み取れる表情があるのかもしれません。

 

『リプリー』The Talented Mr.Ripley 200085日公開
監督:アンソニー・ミンゲラ
原作:パトリシア・ハイスミス
編集 発行:松竹株式会社事業部