そして、私が一度きりの出会いにも心を尽くそうと思えるようになったのは、この池袋駅東口の出来事がきっかけです。

「説明するより、現地までご案内しましょう!」

イタリア人夫妻は、日本人の女の子たちが『道案内』を提案してきたことに驚いておられる様子でした。

私たちは
JR池袋駅東口から伸びる
いくつかある通りから
『サンシャイン60通り』を選択して進み
東急ハンズ横の、長い長いエスカレーターを下り
地下街のショッピングモールを経由して
サンシャインシティ・プリンスホテルの地下玄関前まで、夫妻を無事に送り届けました。

その道中、夫妻は
「イタリアから観光旅行のため来日した」
「東洋一の高層ビル(当時)サンシャイン60の展望台に行きたい」
「サンシャインシティ・プリンスホテルに宿泊する」
「日本食が楽しみ」など
とてもうれしそうにお話ししてくださいました。

プリンスホテルの玄関を後にして
別れ際、振り返ると
ご主人様は、8ミリビデオを取り出して、熱心に私たちの姿を撮影されていました。
奥様も、私たちの姿が見えなくなるまで手を振り続けておられました。

池袋駅東口で夫妻と出会って別れるまで、おそらく30分ほどの出来事です。
私たちには、写真も何も残っていませんが
ご主人様の8ミリビデオに写った私たちの映像を、安易に想像できます。

サンシャインシティからの帰り道、Yちゃんの清々しい笑顔は誰よりも美しいと感じました。
誰かに費やした時間は、こんなにも美しいものなのかと感じました。
今でもその記憶は色褪せていません。

客観的にみれば
「大混雑していた池袋駅東口で外国人夫妻から声をかけられ、30分だけ一緒に過ごした」
それだけの出来事。
それだけの関係。

しかし、30分というわずかな時間が、人生を形作ることを知った出来事でした。
『幸せは、時間の長さではなく、どれだけ深く心に刻んだか』
私がタロットを読む永遠のテーマとなりました。

そして
誰かと出会うことは奇跡のような確率だけど
今の私があることも
今でもYちゃんと笑いあえることも
偶然ではないと感じるのです。

 

人生で会うべき人には 必ず会わされる。
それも 一瞬たりとも
早すぎもせず
遅すぎもせず。
『邂逅』:森 信三 1896-1992