『神的なものであれ、悪性のものであれ、まず人々の心にかすかな吐息のように降りくだり、それからその思想や思考を変えてしまう』
人が理性を見失う瞬間を
「天使の囁き」にも
「悪魔の囁き」にも例え
抗えない力があると表現された言葉です。
1897年(明治30年)ウィリアム・バトラー・イェイツ博士により発刊され た『The SECRET ROSE・神秘の薔薇』では、男女間に芽生える『情感』(ムード)について解明しようと試行錯誤された様子が伺えます。
季節
天候
明るさ・暗さ
温度・湿度
周囲の雑音・静寂
流れている音楽
声の抑揚・高さ・低さ
沈黙
香り
料理
脈拍・血圧
瞳孔の開きかた
服装
室内・屋外環境
距離
どのような条件が重なると、ムードが発生するのか?
あらゆる組み合わせを試されたと察せられますが、ムードが発生する明確な理由は解明できませんでした。
博士は
「天使の囁き」
「悪魔の囁き」
と、説明するしかなかったとのだと思われます。
現代における1ヶ月の変化は14世紀における100年に等しいと言われています。
科学技術が進歩し、ムードを数値化して解明できる時代はすぐそこまでやって来ています。
先の実験も、周波数の計測や、(心身に強いストレスを受けると萎縮する胸腺など)臓器に関する解剖学の分野でなら詳しいデータが取れていたかもしれません。
「彼は今、不機嫌だからLINE送るのやめとこう」
「今日は彼の体調いいので、食事に誘ってみよう」
「彼は今、落ち込んでるからそっとしとこう」
「私の片想いだった」
ムードを読めるシステムが、スマホ以降の媒体で近い将来完備されるかもしれません。
『以心伝心』ではなく、いわゆる『以心電信』と形容される時代の到来です。
「魔術とは究極のテクノロジーである」と解明されて久しくなります。ムードが読めるシステムが実現すれば、医療・介護の分野では大きな恩恵を授かるでしょう。
しかし
余計な気を使わなくて済むぶん、『想像力』は鈍感になり『言葉にして伝える能力』は、断然味気なくなるのではないでしょうか。
相手のムードを察知できるように心をめぐらせる過程で、私たちの『想像力』は自然と磨かれていたのです。
『想像力』を磨いて
心のセンサーで相手を見つめたとき
言葉は選ばれる。
言葉を選んだうえで、言葉が無力になることを知る。
そこで沈黙の尊さにも気づく。
心の領域のムードを合理的に処理することができれば
失恋も
人間関係の失敗も
未然に防ぐことができます。
無用に心を消耗する必要もなくなります。
そうなると
芸術の分野の
音楽
絵画
舞踏
詩
文学など
表現が綿密で繊細な、心のひだを読み取ろうとする作品は、新たに生まれてこない可能性があります。
タロットも
「彼は、私のことをどう思っていますか?」
という質問自体が無意味になります。
タロットはAIに代わり役目を終えるときが来るでしょう。
その日が来るならば、それはそれで喜ばしいことだと、私は本気で考えています。
それならば
『以心電信』の
もう少し先の未来まで
「天使の囁き」
「悪魔の囁き」らが
おり降るムードを
タロットで読める時間を大切にできたらと思うのです。
そして、私は
あえて
沈黙の尊さを知るのです。
『The SECRET ROSE・神秘の薔薇』1897年 表紙
William Butler Yeats(黄金の夜明け団1890年-1923年在籍・教団名:Demonest Deus Inversus「悪魔は裏返された神」)
1923年ノーベル文学賞受賞
『図解 近代魔術』吉村正和:河出書房新社