「なりたい自分になる」というフレーズがあります。

私が、このフレーズから想起するのは、『週刊少年ジャンプ』に掲載作品の
『ONEPIECE』・「海賊王にオレはなる!」
『DEATH NOTE』・「新世界の神となる!」
『銀魂』・高杉「オレはただ壊すだけ」など
主人公らが、願望を言い切って宣言するかたちです。
インパクトがあり、情熱や強さを感じ、カリスマ性と求心力で23年以上にわたり読者の心を魅了してきました。
作者の先生と、集英社の優秀な編集者が綿密な計算をしてできあがったフレーズだと伺っています。

近年、この願望を言い切って宣言するかたちの「なりたい自分になる!」というフレーズが、自己啓発セミナーのキャッチフレーズとして 流用・多用されるようになりました。
宣言のかたちが求心力になることが証明されているからです。

「なりたい自分になる!」と宣言することで
「今の自分ではなく、憧れの自分になれれば幸せになれる!」
努力して、自分を「なりたい」と思う自分に変えてゆきましょう
そういう生き方を目指しましょう
という、人を鼓舞させる作用があります。

それでは、物語の世界ではなく
現実の世界で「なりたい自分になる」とは、どう言う意味でしょうか?

「宝塚音楽学校の生徒になる」
「日本航空の客室乗務員になる」
「○○さんの恋人になる」

それを実現させるために、本人の努力もさることながら、その合否を審判する人がいない限り実現しないものもあります。

「いつもキラキラした女性になる!」
「人生を有意義に過ごす!」
「充実した人生を送る!」

このフレーズなら、理解できます。

しかし
そう言い切って宣言したけれど
「なりたい自分になる」努力をしたけれど
「輝けない」
「自信がない」
「維持するお金がもうない」
「他者の姿に嫉妬してしまう」
「他者のInstagramをみて落ち込む」
と焦燥感と不安を訴えられるかたが後を絶ちません。
焦燥感と不安に苛まれるなら、その「自己実現して生きる」は本末転倒だと感じるのです。

「なりたい自分になる!」という
一見、積極的にみえるキーワードは、
「今のあなたを、あなた自身が否定している」ことになるのです。

あなたは
「キラキラ輝いていなければならない」
「有意義にしなければならない」
「充実させなければならない」
「〜ねばならない」に縛られて
駆り立てられるように「積極的に生きねばならない」と
穏やかであるはずの『平凡』を
否定されているのではないかと拝察いたします。

タロットにも
「憧れ」
「目標」
「投影」
「願望」
《こうありたい自分》を意味する《理想像》の札があります。

《こうありたい自分》とは
「アイドルの『平手友梨奈』さんのようになりたい」
「ミュージシャンの『細野晴臣』氏のように生きたい」
「『ONEPIECE』のサンジのような料理家になりたい」など
あなたが迷わず《選択》できる人物・人物像です。

漠然と「ミュージシャンになりたい」と思うのではなく
「細野晴臣氏の音楽が好き」
という、あなたの《理想像》を確認すること
それがタロットの役割です。

その人の世界観を知るために
その人の作品にふれたり
それに関連することを学んだり
実際にその場所に足を運んだり
歴史を知る過程で
《理想像》となる人物に対して、尊敬や畏怖の念がわいてきます。
それは
「その人から学びたい」
「その人から薫陶を授かりたい」
「その人に相応しい自分になりたい」
という、謙虚さもともないます。

もちろん『サンジ』という架空の人物でも、それに付随するものは実存する人物と変わらないと私は考えます。

よく存じ上げない人物が講師を務める自己啓発セミナーに、あなたが熱を持てないのは当然ではないでしょうか。

また、理想的とも思える「いつもキラキラ輝いている」は、生物学的に不可能な状態なのです。
人間は、『待ち時間』(ストレス)を解消した一瞬に快楽を得るようになっています。
このふたつはセットです。
例えば
「バス停まで遅れそう」→「到着した(快)」
「バスが来ない」→「来た(快)」
「渋滞で新幹線の発車時刻に間に合わない」→「間に合った(快)」
というふうに
1日のうちで、この『待ち時間』と、解消された時間の比率は、圧倒的に『待ち時間』が多いのです。

これを、人の一生の時間に置き換えたらいかがでしょうか。
「彼のLINEの返信を待つ」
「クライアントのOKを待つ」
「工事の完成を待つ」
「病気の回復を待つ」など
むしろ、この『待ち時間』を、どのような心持ちで穏やかに有意義に過ごすかのほうが貴重です。

穏やかな心持ちへと心を整えるには、バスの運転手さんの職務について《想像》することで解決するかもしれません。
バスの運転手さんにイライラするのではなく『労う』という心持ちが芽生えてさえくれば、先の「キラキラ」より、よほど尊いと私は思うのです。
私が『平凡』で、穏やかであることのほうが難易度が高いと思う理由です。

そして私は《想像力》をもって
バスの運転手さんを『労うことができる人』
そういう人でありたいと思うのです。

「なりたい自分」ではなく『ありたい自分』。

「なりたい自分になる!」に疲弊しているあなた。
今の自分を否定しないで
日々、平凡に
「私は、こういうふうにありたいな」でいいのではないでしょうか?
日々、平凡に
他者に対する《想像力》をもって
大好きなものを《選択》し続けていたら
いつの間にか「そうなっていた」と言える日が来ると、私は信じています。

駆り立てられるように、大勢の前で「なりたい自分になる!」と、わざわざ宣言しなくても、今のあなたにはじゅうぶん才能が備わっているのですから。

あなたがいつか「そうなっていた」ときに、あなたがいちばんに報告したい人が、あなたをいちばん理解して応援してくれた人です。

あなたが笑顔でその人に報告できる
その日が訪れる、自分を楽しみに。

 

 

『ONEPIECE』著者:尾田栄一郎 (第1巻1997.12.19-第94巻2019.10.09 連載中)
『DEATH NOTE』著者 :大場つぐみ・小畑健 (第1巻2004.04.07-第12巻2006.07.09 完結)
『銀魂』著者:空知英秋 (第1巻2004.04.07-第77巻2019.08.07 完結)
発行所:株式会社 集英社