「もう、なにを目標に生きてゆけばいいかわからない」
「てち が頑張ってきたから、私も頑張れた」

『欅坂46』の 平手友梨奈さんがグループを脱退することを 2020年1月23日に発表されたのち、たくさんの方々から反響がありました。

アイドルの語源は、ラテン語で偶像(イドラ)を意味します。
同世代の子供達だけでなく、幅広い年齢層の方々から平手友梨奈さんは《偶像》=『理想像』として支持され
「憧れ」
「目標」
「投影」
「願望」
「こうありたい自分」
というモチベーションになっていたのだと拝察いたします。

また、彼女がほかのアイドルと一線を画していたのは、その表現力です。
《笑わないアイドル》と評されていますが、彼女が、『欅坂46』のステージに立つとき、その曲の世界観を体現する主人公に、《既になっている》のだと感じます。
デビュー当時の13歳から、その才能を「憑依」とも称賛されています。

私は、『欅坂46』のなかでも特に注視している
『月曜日の朝、スカートを切られた』という曲中で
平手友梨奈さんが
「あんたは私のなにを知る?」と、問いかけるセリフで、胸が押し潰されるように苦しくなります。
彼女をまだ世間知らずの子供と評するのは簡単です。

しかし、平手友梨奈さんのデビューした年齢の13歳は立派な大人です。
少女の姿をしていますが
学校で
部活で
家庭で
塾で
友達とのつきあいのなかで
他者の顔色を敏感に察知し、その相手に相応しい自分を使い分けています。

【あなたは何人の自分を使いわけていますか?】
広告代理店 電通の『電通報』のアンケートに以下のような回答が寄せられています。

《 高 校 生 》5.7人 (男性4.9人)(女性6.6人)
《 大 学 生 》5.0人 (男性4.2人)(女性5.8人)
《20代成人》4.0人 (男性3.2人)(女性4.8人)

子供達の天真爛漫な姿も、親を心配させないように明るく振舞っているのかもしれません。

それを体現している平手友梨奈さんに
子供達は、自分の姿を投影しているのです。
そして、かつての子供だった私達も共感するのです。

平手友梨奈さんが、円満な「卒業」ではなく「脱退」を選ばれたことに、実は私は救われました。
全国の子供達に
かつての子供達に
「コミュニティから外れることの勇気」
「円満にものごとを運ぶことが必ずしも善ではない」
「同調することではなく、自分の意見を言えること」
これらを肯定できる機会を与えてくださったと感じます。

また、「相談する相手が、プロデューサーの秋元康氏しかいなかった」というエピソードから、「メンバーの同世代に友達はいなかったのか?」と、『欅坂46』のグループのあり方に疑問を呈すようなコメンテーターの言葉もありました。

しかし
私は、『欅坂46』のほかのメンバーに疑問を呈すのではなく、これが社会の《日常》であると伝えていいと思うのです。
私のOL時代は、職場の支店に50人の社員が在籍していましたが、会社は仲良しグループではありません。
ビジネスの場です。
ビジネスの相談をする相手は《上司ひとり》だけでした。
むしろ同世代の子には解決する権限がないと思って正解です。
現在の社会システムでは、この「会社」「学校」というコミュニティのあり方は否定できないのが現状です。

このシステムのあり方に一石を投じる《偶像》となるのが、平手友梨奈さんなのかもしれません。

先の『月曜日の朝、スカートを切られた』の歌詞に、学校に行かなくてはならない意味を
「ネットで知るからいい」と、諦めのニュアンスで歌われる箇所があります。
平成31年度の義務教育中の不登校の生徒数は「144,000人」と文部科学省は報告しています。
《学校》《ネット》というキーワードは
今から10年先20年先でも、近い将来
在宅で社会や学校に関わるシステムが整備され、「ハンディを持った人達が生きやすくなる環境が整いますように」という、願いの暗喩ではないかと感じます。

秋元康氏は、『欅坂46』を通じて
子供達の人間関係のなかで生じる
いじめ
不登校
孤独感
焦燥感
嫉妬心
絶望感
自殺願望
諦念
虚無感、などを丁寧にすくいあげ、危機感をもって発信してこられました。

これは、子供達だけではなく、かつての子供だった私達にも鮮烈なメッセージとして届きます。
『欅坂46』がデビューしてから5年間かけて育んできたものは、私は公の財産だとも思うのです。

これからも
平手友梨奈さんと『欅坂46』が
どんなかたちであれ、発信者としての使命を持ち続けてくださるよう願っています。

 

『月曜日の朝、スカートを切られた』:欅坂46『真っ白なものは汚したくなる』2017 Sony Music Records 2017.07.19

写真:欅坂46『欅共和国2017』
2018 Sony Music Records