「おれは きみをいつまでも守ってやることができる!」
「おれのこと好いてくれなくても、
おれは きみのこと、ずっと好きでいるよ」

楳図かずお先生の『漂流教室』の作中
主人公の高松翔くんに片想いをしている咲子さんに対して
大友くんが自分の想いを告白する台詞です。

大好きな誰かの心の中に
自分ではない誰かがいるとわかっていながら
それでも
「きみが(高松くんと共にいる)この世界のほうがいいって言うなら、一緒にいてもいいや」
と、言い切れる大友くんからは
「あなたが幸せなら、私はそれでいい。
相手は私ではなくても」
という、見返りを求めない無償の愛が見出されます。

誰かを
誰かの心を
獲得できるか、できないか
即物的なものではなく
そのどちらでもない「見守る」という選択肢があることにも救われます。

『漂流教室』は
文明の崩壊によって滅び、砂漠化した未来の世界に
大和小学校の生徒と教員、合わせて862名が時空を超えて移動する物語です。
大人である教員達は想定を超えた世界に適合できず、小学1年生から6年生までの子供達だけが校舎と共に取り残されてしまいます。

水も食料も限界があり
疑心暗鬼と混乱、略奪と殺戮…
烏合の集と化した群衆の
秩序を回復させ、その世界を維持・管理するため
総理大臣
厚生大臣
防衛大臣
文部大臣など
管理者となる7人を選出し
「意見の違う二人以上の人の間にはイデオロギー(政治的・社会的思想)が介在する」
という理念を、子供達が体感しながら模索する姿も詳細に描写されています。

しかし、人々が生きてゆくうえで必要な
創造・生産・維持・管理・継承は
保守であれ
革新であれ
その原動力となるものは
「自分ではなく、誰かのために」。

その純粋な想いが 世界を構築していると
先の大友くんの台詞に代弁して
楳図かずお先生のメッセージが込められているように感じます。

報われると約束できないものに
エネルギーを注ぐこと。

その姿は美しいと信じられますように。
迷いながらも
その過程に愛が芽生えると信じられますようにと『漂流教室』は教えてくれます。

 

『漂流教室』楳図かずお
週刊少年サンデー:小学館1972年(第23号)〜1974年(第27号)連載

【スーパービジュアル・コミックス 】
①「とざされた世界」1993年11月15日 初版第1刷発行
②「大和小学校国の門出」1993年12月15日 初版第1刷発行
③「時をへだてて」1994年1月15日 初版第1刷発行
④「滅亡の記録」1994年2月15日 初版第1刷発行
⑤「漂流の果てに」1994年3月15日 初版第1刷発行
著者・楳図かずお :発行者・鈴木俊彦 :発売元・株式会社 小学館