“THE DESTOROYER OF THE WORLDS”
( 私は世界の破壊者となった )

第二次世界大戦当時、ロスアラモス国立研究所の初代所長として、マンハッタン計画を主導した ジュリアス・ロバート・オッペンハイマーは、1945年7月16日 最初の原爆(原子爆弾)実験の際、この バガヴァッド・ギーター(ヒンドゥー教の聖典)の一説を思い起こしたそうです。

私は、1945年(昭和20年)8月6日に世界で初めて原爆が投下された広島県の出身で、幼い頃から原爆についての平和教育を受けてまいりました。
県内全ての公立学校は 夏休み中の8月6日を登校日とし、原爆投下の 08時15分には広島平和記念式典(広島市原爆死没者慰霊式並びに平和祈念式)のテレビ中継を観ながら 全校生徒で黙祷を捧げる儀式も行ってまいりました。

私は、原爆の非業の破壊力を恐れるあまり
「原爆は絶対的な悪」だと、小学生なりに辿りつける 精一杯の思考回路で原爆をカテゴライズしていました。

しかし、1999年9月4日 坂本龍一氏のオペラ
『 LIFE a ryuichi sakamoto opera 1999 』
【 第1倍・第1場:戦争と革命 】を鑑賞して以来、原爆に対しての意識に変化がおきました。

ステージ上のスクリーンには
①ポーランド難民
②ヒトラー
③爆撃後の都市
④原爆後の広島
⑤革命の日付けリスト
⑥湾岸戦争 ほか
それらの映像が時系列に沿い
坂本龍一氏の演奏と共に映し出される演出でしたが
最後のメッセージの

“THE DESTOROYER OF THE WORLDS”
( 私は世界の破壊者となった )

から、
オッペンハイマーの絶望的な後悔と懺悔と共に、原爆の開発を一つの契機として、ジョン・フォン・ノイマンを中心に電子計算機(コンピュータ)が発展することになった事実も知るところとなりました。

私達は「戦争の恩恵」を日々、電子計算機 (ノイマン型コンピュータを作動原理とした スマートフォン・パーソナルコンピュータ・スーパーコンピュータ・AI)から享受している事実。
豊かで便利な生活をもたらしてくれる電子計算機の進歩は、多くの犠牲者の上に成り立っていることを忘れないでおくことが、唯一 私にできる犠牲者の方々に対する礼儀ではないかと思うようになりました。

「生と死」
「光と闇」
「陰と陽」
「善と悪」
「秩序と混乱」
「自然界とテクノロジー」
相反する二極の要素が一体となり世界を構築しているという視点でものごとを見ることにより、はじめて対極にあるものが何であるかを理解できます。
対極にあるものが何であるかを理解できなければ、解決策さえ見つかりません。
ものごとの両極にあるものを見極め 解決策や折衷案を見出すことにより、そのスキルを平和的に活用できるのではないでしょうか。

そして、ヨーロッパの産業革命以降
「魔術とは、究極のテクノロジーである」と周知された現代においても、未だ自然界の威力の前では、人間は安定した状態を保つことは困難です。
自然界に対する畏怖の念と
テクノロジーに対する謙虚さを忘れずに
私達は、相反する要素を調和させることに留意し
未来に繋いでゆく役割があるのではないかと
20年の時を経て なお『 LIFE 』は 問いかけてくれます。

DOCUMENT 『LIFE』 a ryuichi sakamoto opera 1999
発行日:1999年9月4日
坂本龍一:LIFE IN PROGRESS・1999 WARNER MUSIC JAPAN INC.