『六弦の音楽』
ロバの鞍にギターをくくりつけ
ギター職人の爺さんは、村にたどり着いた
市場で爺さんは立ち止まり、ギターを首にかけると
まだギターの音を聞いたことがない村人の前で
一つの和音を鳴らした
その素朴で美しい音色に、市場はしんと静まり返る
ロバは、音に耳を傾けながら、
これまでの旅路で出会った民族楽器の響きや、歌の旋律を思い返す
「そのギターとやらをこのナツメと交換してくれ」
「この織物はどうだ?」「俺はこの岩塩もつけるぞ!」
村人たちはギター欲しさに持ってるものを次々と差し出した
「これはやれないんだ。わしの大事な旅の友だから」
爺さんはすまなそうに答えた
その替わり、ギターの作り方を教えてあげよう、と
木から胴体とネックを、そして動物の腸から弦を作る方法を教えた
ギターが組み上がると、これまで旅をして来た国々の民謡を歌って聞かせた
翌朝、村人から贈られた沢山の食べものと飲みものをロバに積むと
爺さんは、また次の村へと歩み出した
詩:青柳拓次
朗読:桑原茂一
去る10月12日。
京都・光明院にて、『フリーダムディクショナリー』桑原茂一 企画:青柳拓次のライブが開催されました。
月明かりの光明院・波心庭を背景に、和蝋燭の灯りのもとギターの音色が奏でられました。
虫の声。
流れる水音。
梢の揺らぎ。
鳥の声。
遠くから聞こえてくるサイレンの音までが、そのときにしか起こりえない「一回性」の音として、ギターの音色と調和。
月の動きは、音のない音楽のよう。
そして何より、桑原茂一さんによる詩の朗読。
その声は、あたたかで静かな響き。
それはまるで映画のプロローグのようでした。
(どうしても皆さんにお伝えしたいので、失礼を承知で形容させていただきます。桑原さんの朗読は、語り口・声のトーン・言葉の余韻までが、俳優アンソニー・ホプキンス氏を彷彿とさせます)
「そこにあるのに無いような存在」をコンセプトに、光明院の空間に溶け込んだ、ヒロ杉山さんの『国宝』。
『トリバコーヒー』のやわらかな香りとともに、贅沢な時間が流れてゆきました。
「選曲をアートする」
「アートを選曲する」
桑原茂一さんの観ている目で、世界をみてみたい、聴こえている音をききたいと願っています。
◆青柳拓次:『海のなかの湖』
このアルバムには青柳拓次による各曲と同タイトルの短編小説が封入されています。
- プロローグ
- 魂に名をつけず
- きちんと涙を流せば
- 光る雨
- 雪あかり
- 礼服の野蛮人
- しめやかに聞こえてくる
- 未来の再訪
- 海のなかの湖
- 二つの月
- 遠ざかるほど近づく
- ちぎれた炎
- 歩くことについて
- まぶたの奥で動く目
- エピローク
- 六弦の音楽
発売:2024.07.30
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