「もしかしたら広島から戦争反対するのは難しいかもですね。
自分の愛する者たちが殺されそうになるなら、命をかけて守る」
:桑原茂一

広島について桑原さんとmailでお話しするなか、広島で生まれ育った私にとっていちばんうれしかった言葉です。広島は、戦争を全否定するイメージを持たれがちですが、「平和を唱えるだけでは、平和は実現しない」という想いも強く抱いています。
桑原さんの問いかけに答えながら、私のなかのアンビバレントな感情がどこから来ているのか知ることとなりました。

1945年(昭和20年)8月6日午前8時15分。B-29爆撃機からウラニウム型原子爆弾が、広島・相生橋を照準に投下。同年12月末までに約14万人が死亡したと推計。広島市が把握している死没者名簿は、34万4,306名が登録。

そして、終戦から80年。

広島は、奇しくも原子爆弾開発で飛躍的に進歩した電子計算機(ノイマン型コンピュータ)の恩恵を授かりながら今日まで発展してきました。それは広島だけではなく、世界のあらゆる産業・経済・運輸・通信・教育・医学・芸術の分野でも。原子爆弾をつくると同時に、情報科学や生命科学という新しい科学技術への転換も用意されたといえるでしょう。科学技術の結晶といわれるスマホにさわるとき、私は戦争の功績を連想して謙虚な気持ちになるのです。

なので、「自分は戦争に関わっていない!」と明言している人をみると、「じゃあ、いますぐスマホ捨てろ!」と思う私がいる。30万人以上が犠牲になり、今日があることに気づかなければ、亡くなった方たちに申し訳ない。

科学の進歩とは、戦争の功績であると辞書には記載されていません。Chat GPTも答えてくれません。しかし、いま私の手元にある1999年発行『dictionary 』69号では、広島について問いかけ、自分の力で考え、答えることを促してくれています。

編集長の桑原さんは、表層的な平和を語る人ではなく、広島のもつ複雑な感情を、当時から汲みとり理解されていたのです。freedom dictionary 創刊37年の歴史のなかで、変わらないテーマ。

自由な表現とは、それを問う人がいてくれるから。

ART + Vinyl『freedom dictionary 』224号
発売日:2025年6月1日
編集発行人:桑原茂一
特集:AIは戦争を知らない『明東館』広告