「ネットの無料占いは当たりますか?」
この数年で、このような質問をいただく機会が大変多くなりました。
私が、お答えできるのは
「あなたがそのチャンネルの登録・高評価をすることで、その占い師の利益になるなら、効力は発生するかもしれません」
ということだけです。
つまり、報酬が発生しないものは、占いに限らず「責任が伴わない」ということです。
もっと言えば、無料で占ってもらったものはリスクが発生すると私は考えます。
例えば、家を建てるとき
「全て無料で、設計・建築してもらった家に住めますか?」ということです。
雨漏りがしようが
床が抜けようが
漏電しようが
排水ができなくなっても
クレームは言えません。
「家」という効力を発揮できていないうえ、トラブルに見舞われる物件を、「あなたが無料でもほしいかどうか?」ということです。
それでは、雑誌や新聞に掲載されている『今月の占い』『今日の占い』はいかがでしょうか?」
出版社や新聞社が、占い師に報酬を支払っているのですから、効力はあります。
本屋さんでの立読みや、理容院で偶然に開いた新聞で(集客という意味で、いずれ本屋さんや理容院の利益につながる可能性があるので)占いに興味を持っていただけることも大歓迎ですが、できれば雑誌や新聞を「あなたが購入する」状態が望ましいです。
厳しいことお伝えしていますが、私自身、タロットを読み始めた頃は「誰かを幸せにできるなら、報酬はいらない」と”善意”で考えていました。
しかし、タロットを深く掘り下げてゆくうちに、朴筮(ぼくぜい)・お呪い(おまじない)・黒魔術・白魔術など、”不可視の領域”(オカルト)についての学びが必要になってきました。
不可視の領域を操る人物として印象深いのは、横溝正史『八つ墓村』に登場する「濃茶の尼」(こいちゃのあま)の存在が挙げられます。
濃茶の尼は不遇な生い立ちで、俗世から離れ、予言めいたものを告げる巫女(みこ)のような生業をしています。
濃茶の尼は、村人が望んでいない状態にもかかわらず、一方的に「予言」を告げてまわります。濃茶の尼は「祟り」(たたり)という、反証できないキーワードを使い、不吉なもの・個人を誹謗中傷するもの・避難勧告など排除すべきものを羅列し、村人の不安を煽り、皆んなから敬遠されるようになります。
濃茶の尼からすれば「警告」「アドバイス」を告げて村人を危機から回避させようと“善意”からの行動だったのですが。
このように、不可視の領域では善意であっても、一方的に「予言」を告げてまわることは、御法度です。
受け取る側のコンディションが整っていないときに、責任の伴わない「警告」「アドバイス」をされてもダメージのほうが大きくなるだけです。
それを理解してからは私は、決して無報酬でタロットを読まなくなりました。
そして何よりも「誰かを幸せにできる」とは思い上がりで、まず自分を厳しく律する必要があることに気付いたのです。
孤独に耐えることはもちろん、価値観を変えたり、固定概念を壊したり、反応しない精神力を鍛えたり、コンディションを整えたりと、修行のような自助努力が求められたのです。
そう言った意味で、自助努力のない占い師が告げるメッセージに、説得力があるかどうかも問われます。
古来よりタロットは対面で行われ、鑑定師は相談者のコンディションを、微に入り細に入り読み取る技術が必要でした。
しかし、SNSの発展で、身元を明かさず、簡単に「予言」を告げることができる時代になり隔世の感を覚えます。
「濃茶の尼」は架空の人物ですが、あなたが占ってもらった占い師は実在する人物ですか?顔も名前も所在も連絡先もわからない人物の、責任の伴わない言葉を信じますか?
SNSで一方的に占いを発信するシステムに、私は現代の「濃茶の尼」をみるようです。
あなたがリスクを踏まえたうえで、SNSの無料占いを楽しむなら、それは由だと思います。
『八つ墓村』著者:横溝正史・発行者:堀内大示・発行所:株式会社KADOKAWA (1971年)昭和46年4月30日初版発行
『図説・近代魔術』著者:吉村正和・発行:河出書房新社 2013.09.30初版発行
『フリーメイソン』著者:吉村正和・発行:河出書房新社 2010.08.30初版発行