細野正文氏遭難日記全文

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午前6時目覚める。8時朝食、食事すすまず。
非常に濃い霧にて、船は三分間くらいの度に汽笛を鳴らして、前途を警戒しつつ進行した。
何となく危ない心地がする。
午後より風が大いに起こり、波高く船の動揺が盛んになり、心地が悪くなる。
食事は3度ともいただくが、料理も不味く、船酔、気疲などもあって更に食欲を発せず。

この日に、失った毛布を発見して大いに安堵する。
これまで、自らそれとなく探し歩き、事務局にも通知して、ひとりSteward(客室乗務員)には賞をかけて頼んでいたので、この男性の客室乗務員の知らせで見に行けば、紛失品多数ある中に、私の毛布もあった。
チップとして2S.6d.2セントほど)渡す。

この夜は、私のSmoking roomの占領している場所を、他の横着な人に横領されたため、別室の食堂に行き、布のクッションを床上に敷き、その上に毛布を延ばして、私の毛布をかけながら眠る。
もちろん洋服を着たままである。
兎にも角にも、苦しき旅行である。

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夜中に激しい雷鳴を聞くこと数回。初めは何事かと人々と共に飛び起きるほど。
午前6時起床。風雨大霧。船は汽笛を前日のように鳴らした。
前日は午後になると霧は晴れても、本日は終日濃霧である。
雨は一時止んだが寒い。
15日に見た氷海は16日以降は見えない。

午後10時。前日と同じ様子で眠る。
当然の航海ならば、本日はニューヨークに着いているはずなのだが、不運なことだ。
本船は初18日着の予定なのだが、新しい情報によると19日の朝に到着するらしい。
この日、遭難者の点呼・身元書き取りがあり、一枚の標札をもらう。

午後10時。昨日のように食堂で眠ろうとしようとすると、婦人のみのことで、男性は(入室を)許されず、喫煙室に来てみれば、満員で寝る所もなかった。
椅子に腰掛けたまま、半眠のまま一夜を明かす。
実に辛い航海である。

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霧・後雨・寒し。霧のため四面模糊。
午前5時。すでに半眠中より覚めて起き出て、甲板上の腰掛けの上で眠ろうとするが眠れず起き出す。
顔を洗い、甲板上で運動する。
喫煙室にては衆人(一般人)のためからかわれ、実に閉口してしまった。ロクデモナイ水夫連中の事故の噂話も馬耳東風で聞き流す。

8時朝食。食後、髭を剃る気力になる。ちょっと眠る。

12時昼食。食後話すこともなく過ごす。退屈このうえない。
喫煙室にて、私の身の上話を話しをして、彼ら() bull dogをして、少しは敬意をわかせるようになった。

15日より、この日まで費やすところ六志半。
その前に船中に費やしたのは六志である。
Titanic号便箋に記入する分はこれにて終わる。

()bull dog:犬種を指すのか、俗語を指すのか不明