YMO『テクノポリス』で演出してほしかった。
2020東京オリンピック開会式を拝見して、まさかの自分の反応に驚いています。

YMOを神聖化している私は『テクノポリス』を語ることを、長い間、警戒していました。

『テクノポリス』が収録されているアルバム『ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー』は、100万枚を超える大ヒットとなり、社会現象にまでなりました。
プロデューサーの細野晴臣氏が「次は売れないレコードを作ろう」という実験で『BGM』『テクノデリック』を発表された経緯があります。

YMOファンには
細野晴臣氏の「売れないレコード」という実験の「篩(ふるい)にかけられて残った私」という自負があります。
ファンどうしの挨拶は
「『BGM』派?」
「『テクノデリック』派?」
で、通じます。

私の、その謎の自負に拍車をかけたのは、砂原良徳(愛称:まりん)氏によってリマスタリングされた、YMOベストアルバム『NEUE TANZ』に、『テクノポリス』は収録されていなかったことも挙げられます。
畏れ多くも「私は、まりん氏に認められた」くらいの喜びようでした。

そうした経緯で、私は『テクノポリス』を語ることは、もう長い間ありませんでした。

しかし
開会式の『コンピューター・ルーム』の演出を拝見して、どうしても意見したくなる私がいるのです。

『コンピューター・ルーム』は、おそらく、前回の東京オリンピックが開催された1964年(昭和39年)当時に「想像した未来像」の設定だと拝察されます。
楳図かずお先生の『わたしは真悟』で描かれている世界観のようで、ノスタルジックで味わい深い演出でした。

その設定から、私はすぐに
1964年にAES(Audio Engineering Society Inc.)コンベンションで披露され、世界の音楽シーンに大きな影響を与えた『モーグ・シンセサイザー』奏者の第一人者である、松武秀樹氏を思い浮かべました。

松武秀樹氏は、1978年にYMO(Yellow Magic Orchestra)が結成された当初からマニピュレーター(機械の作業を実行するセクション)として楽曲制作やライブに参加され、「第4のYMO」としてご活躍されました。

松武秀樹氏の所有されている『MOOG 3-C』トランジスタ型は、現在でも「音」を奏でることができます。
『MOOG 3-C』の機能は
「同じ音が作れない」
偶発性に面白さがあり
「一回性」の尊さを教えてくれます。

2020東京オリンピックバージョンの「音」があってもよかった。
『MOOG 3-C』の機能を、時代を越えて2021年に発揮してほしかった。
それに相応しい演奏家は松武秀樹氏しかいない。
“東京の音楽”なら『テクノポリス』しかない。
過去の映像でも
音楽だけでも
「音」だけでも
どうにか活かしていただきたかった。
ここに至るまでの謎の苦しみは、YMOをこじらせている方には、ご理解いただけると思います。

『MOOG 3-C』が、40年以上の年月を経過し、現在でも「音」を奏でることができるのは、松武秀樹氏がメンテナンスに時間と労力を費やしてこられたからです。
そこには、『MOOG 3-C』に敬意を払う、職人としての松武秀樹氏の姿があります。
松武秀樹氏のような、職人の技術と知恵の集大成が、日本が世界に誇るスーパーコンピューターを生みだしたのではないでしょうか。

18世紀のヨーロッパ産業革命以降
「魔術とは究極のテクノロジーである」と定説になっています。
テクノロジーの象徴である
『コンピューター・ルーム』こそ
正確に取り上げてほしかった。
徹底的にこだわってほしかった。

そして私は
オリンピックの開会式で
これほどまでににフラストレーションをためて、イライラする自分を省みるのです。
それは
日本のテクノロジー技術は、世界一だと信じたい「願望」から来ています。

人は、どうでもいいものに
反応しないし
イライラもしません。
大好きだから意見もしたくなる。

オリンピックの開会式を拝見して
『テクノポリス』を滔々と語りたかった自分がいて、驚いています。
まさかの反応で、自分の姿は案外みえていないことを知った、2021年夏の日です。

 

YMO『NEUE TANZ』リマスター:砂原良徳 Sony Music Direct(Japan)Inc.2018.10.17
『ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー』アルファレコード株式会社・発売元:ビクター音楽産業株式会社1979.09.25

『富岳』:理化学研究所・富士通株式会社 共同開発『富岳』2021.03.09共用開始
世界のスーパーコンピュータに関するランキング①「TOP500」②「HPCG(High Performance Conjugate Gradient)」③「HPL-AI」④「Graph500」第1位
『富岳』フルスペック(432筐体、158,976ノード)3期連続4冠達成

『細野観光 1969 – 2019』細野晴臣デビュー50周年記念展・六本木ヒルズ展望台 東京シティビュー・スカイギャラリー2019.10.04-2019.11.04
『40ymo 1979-2019』2019.08.26初版発行 著者:三浦憲治・発行:株式会社KADOKAWA

『わたしは慎吾』2018年アングレーム国際漫画祭【遺産賞】受賞
ビッグコミック・スピリッツ1982.04.30日号-1986.09.01日号連載・著者:楳図かずお・発行所:株式会社小学館
第一巻2000.03.10初版第1刷発行-第七巻2000.06.10初版第1刷発行
*砂原良徳氏の愛称まりんは、『わたしは慎吾』のヒロインの名前が由来。