「今夜、もう少し一緒にいたいです」
その一言がどうしても言えなくて
焦りのあまり
「クロード・ルルーシュ監督のフランス映画『Un home et une femme (男と女)』で、恋人たちが駅のホームまで見送りに行くのは、強制的に電車のドアが閉まって、物理的に離されないと別れることができないからですよね?」
と、かつて男性に”謎のクイズ”と”映画解説”をしてしまった私の失態を
「それいい!」
と仰ってくださった、陶芸家の銭本眞理氏。
「言葉のない物語」をかたちにする銭本眞理氏に、私は何度でも「言葉が無力になる瞬間」を教えていただくのです。
彼女の作品に初めて出会ったとき、陶器そのものに透明な『青い水』を張ったような不思議さに「この青色はどこから来たのだろう?」と、一瞬で魅了されました。
その『青い水』のような色は異国の色。
ウズペキスタン・サマルカンドで出会った古陶片器に、彼女は大好きな織部焼のルーツを感じ、それ以来、自由奔放なペルシャ古陶器に影響を受け、シルクロードに熱い想いを寄せて作品をつくり続けられているそうです。
私が
見たこともない情景
聞いたこともない街の音
感じたこともない陽の光が
彼女の作品からは伝わってきます。
そこに言葉がなくても、です。
タロットを読むということは
「絵柄をどれだけ精密に言葉に訳せるか」終わることのない課題を与えられているように感じます。
それは常に、何に対しても、「言葉」で明瞭に解説することを課せられているような感覚です。
『取り扱い説明書・完全版』を目指すような日常のなかで、私は徐々に「言葉」に畏れを感じるようになってきました。相手に理解してもらおうとするあまり、語りすぎることの弊害についても知りました。
それに相反するように、タロットを読むときは
「言葉」こそが武器に匹敵するのだと、驕り高ぶる気分になったりもするのです。
しかし
その「畏れ」も「驕り」も
「あんまり意味がなかったよね」と思わせるほど、彼女の作品を前にすると緊張が解かれてゆきます。
ふだん、どれだけ肩に力が入っていたのかと驚くほどの解放感です。
陶芸は作品がひとつ出来あがるまで
「偶然」の産物であったり
「遊び」のなかで閃いたり
「失敗」のなかにヒントがあると
彼女は語られます。
「そこに
釉薬の面積
土の粘度
窯の温度
気温
湿度
季節
天候・気圧などの
数字に関するデータやロジカルな仕組みがあったとしても、必ずしも同じものができると限らない未完全さ。
どんな仕上がりになるのかわからない不明瞭さ。
AIで、作家の”動作や癖”がマスターできるほどの精度が開発されている。
もう、そこまできている時代だと言われているけれど、それでも人にしか感知できない感覚があると信じたい」
とも語られました。
彼女のお話を伺っていると
未完全で
不明瞭だからこそ
偶発的な面白さ
一回性の面白さ というものがあると気づかせていただきます。
“謎のクイズ”と”映画解説”をしてしまうような私を「それいい!」と受けとめてくだされば、そんな自分を好きだと思えてくるし、不思議です。
そして今日は
英語圏には表記の言葉がない
満月の次の日
「十六夜」をテーマに
その僅かに欠けた月の
未完全なものに名前をつけて愛でる日本人の繊細さを表現した
『土母神十六夜』
というお名前の女神さまの作品と出会えました。
銭本眞理氏の作品から
未完全で不明瞭
偶発的な
一回しか起きないことの尊さを知ると
人もまた未完全で不明瞭だから愛おしいと思えるのです。
「言葉のない物語」をかたちにする銭本眞理氏に、私は何度でも「言葉が無力になる瞬間」を教えていただくのです。
◆【青馬窯】銭本眞理氏の作品は、暮らしの道具吉山(株式会社吉山タンス店)でご覧いただけます。
◆二人展【キセキノキセキ 2 (奇跡の軌跡2) 】2020.10.3-14 まで開催中
◆10月14日(水)銭本眞理氏 在廊
◆展示会場・写真:暮らしの道具吉山(株式会社吉山タンス店)HANARE
広島県福山市霞町3丁目4-24