『 1万円の原価知ってるか?
約28円。
金は価値と交換できる引き換え券だ。
金自体に価値はねえよ 』

2004年「ビッグコミックスピリッツ」誌上で連載が始まった『闇金ウシジマくん』は、2019年2月に連載が終了しました。
連載期間は15年で単行本は全46巻発行されました。

『闇金ウシジマくん』は、平成の半ばから終わりまでの
15年間の日本の姿を克明に記録した貴重な作品です。
大衆文化のなかに隠れた『記号』を読みとる「カルチュラル・スタディーズ」(大衆文化研究)として、ひとつの作品にこれほど多岐にわたる『記号』が散りばめてある作品は、非常に稀だと感じます。
『闇金ウシジマくん』の作品に描かれている『記号』を読み取れば、日本の社会の構造を明らかにできます。

『記号』とは
例えば、【公衆電話】=【個人が特定できない援助交際に便利なツール】というふうに
公衆電話そのものが持っている意味(デノテーション)より
別の意味を『記号』であらわす試み(コノテーション)です。

作者の真鍋昌平先生は「1,000人には至らない程度の人に会って取材した」と語られています。
日本のリアルから目を逸らすことなく
ある人物やものごとを一面だけでなく
あらゆる角度から俯瞰し
それに付随している『記号』を分析されていることにプロフェッショナルとしての圧倒的な信念が伝わってまいります。

『闇金ウシジマくん』に登場する人物は誰もが魅力的ですが、その中でも特に私が注視している飯匙倩(ハブ)組長という人物がいます。
「彼がなぜ裏街道を歩むことになったか?」
その理由を私は、過去の回想シーンで知るのですが
彼には彼なりに
多くの人々の期待を背負い
切羽詰まって自分を犠牲にした経緯が描かれています。
これは、実際に「虐め」を受けた経験のある者にしか理解できない描写です。

飯匙倩組長のエピソードから
「理解できる」
「理解できない」を確認するため
『闇金ウシジマくん』の登場人物の気になるセリフを
第1巻に遡って、ノートに記録する作業をはじめてみました。
『闇金ウシジマくん』を読み進めてゆく中で
私が、どのテーマに関心を持って
どのテーマに関心が持てなかったかも客観的に見てみようと試みたのです。

しかし、この作業を終えて
当然と言えば当然なのですが
関心がないものに、興味を持って探すこと自体ができませんでした。
見事に『フリーエージェントくん』(第30-32収録)の回だけは
誰のセリフも記録することがありませんでした。

かたや
飯匙倩組長や
マサルや美奈ら 債権者の子供のセリフなどは
書き出した後に
更に赤ペンでアンダーラインを引くほどの熱の入れようで、結果的に、どのテーマに関心が持てなかったかがわかりましたが
関心が持てなかったものには
「理解できる」
「理解できない」という以前の問題で
《理解しようとする努力もうまれなかった》ということに自分自身でショックを受けました。

虐め
不登校
子供の貧困
子供への虐待
少女買春(援助交際)
育児放棄(ネグレクト)
など
『闇金ウシジマくん』では
今日も、今この瞬間も
この日本で泣いている子供達が描かれています。

これらの問題を知りながらも
《理解しようとする努力もうまれなかった》
これがおそらく現在の日本の現実です。

それでも、ひとりでも多くの人が『闇金ウシジマくん』に描かれている『記号』に気づいて、心に留めていただけるよう願うばかりです。

最終回を迎えて、私がいちばん印象に残った
『闇金ウシジマくん』を象徴するセリフは

『 1万円の原価知ってるか?
約28円。
金は価値と交換できる引き換え券だ。
金自体に価値はねえよ 』
(第29収録)

丑嶋くんのこのセリフは
逆説的に
『お金では交換できない価値もある』
ことを意味します。

『闇金ウシジマくん』こそ
私が交換した金額以上の
価値あるものを授けてくださいました。

 

真鍋昌平先生の更なるご活躍を心よりお祈り申し上げます。

 

『闇金ウシジマくん 』第1巻2004年9月1日初版第1刷発行-第46巻2019年6月4日初版第1刷発行:著者・真鍋昌平:発行所・株式会社 小学館

 

◆(2010年6月18日以降)金銭の貸付けを行う者が業として金銭の貸付けを行う場合に
金利が20%を超えていると出資法違反で刑事罰が課せられます。
また、利息制限法と出資法の上限金利の間で貸付けると貸金業法の法令違反で行政処分の対象になります。