「さあ、かぐや姫よ。
こんな穢き所(自己中心の欲望に満ちた穢土である地上界)に、
長居する必要などありません。
はやく月の都に帰りましょう。」

『竹取物語』で、かぐや姫を迎えに来た天人達が、
「天上界に帰れば、苦しみのない、穏やかで清らかな世界が待っている。」
と、かぐや姫を説得するシーンです。

かぐや姫が天上界から地上界へと追放されたのは、
罪の償いをするためだと云われていますが、
肝心の姫の罪状については明らかにされていません。

禁じられた恋をした罪だったのか、
または逆に、恋することが出来ない未熟な心を、
男女の愛憎が渦巻く地上の国で苦難を経験させることによって、
成長させるためだったとも解釈されています。

いずれにしろ、苦しみのない世界に行けるとして、
あなたは積極的に行きたいと思われますか?

そこで奏でられる音楽とはどういうメロディなのでしょうか?
そこで謳われる詩とはどういう言葉なのでしょうか?
そこで描かれる絵画とはどういう色彩なのでしょうか?

美しいものだけで創造された世界とはどのようなものなのでしょうか。

苦しみや悲しみの感情の起伏が織りなす音楽。
絶望を知っているからこそ生まれる愛の言葉。
暗闇が存在するからこそ、光が世界を色鮮やかにできること…。

私達が、地上であらゆる感情を味わい、
それを糧に表現すること。
実は、私達はこの地上で貴重な経験をさせてもらっているのではないかと、
そんなことを感じた『竹取物語』のワンシーンでした。

あなたにとって苦しみのない世界で生きるとは、
どのような人生となるでしょうか?

 

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