『 芸術は複製されると アウラ(オーラ)が失われる 』

ヴァルター・ベンヤミン(1892-1940 ドイツの思想家)
の お言葉から
音楽家の 坂本龍一 氏が
「一回性の問題」について、
坂本氏ならではの視点から語ってくださいました。

「 音楽・音というものは
毎回、同じとは限らないし
コントロールできない良さがある。
『毎回同じことが起こる』
『劣化しない』など
複製技術時代の現代において
◆ 一度しか起こらない
◆ 一回しか起こらない
それらは非常に大事なものである 」。

アルバムasync については
「あまりに好きすぎて、誰にも聴かせたくなかった」。

このメッセージからは
『一回限りのものとして慈しんでいたい』
という
坂本氏の一回性を愛でる想いが伝わってまいります。

ベンヤミンの生きた時代は
「複製」そのものに莫大な時間と労力と資金が必要な時代でした。
それを鑑みると
現代では、スマートフォン等の普及で、
録音・録画・コピー が安易に行えるようになりました。

それ故に
芸術の分野だけでなく
私たちの日常も希薄になりがちで
『一回限りのものとして慈しむ』心が
時に、鈍感になってきているのではないでしょうか。

手書きの手紙も
大好きな誰かに会いにゆくことも
スポーツの審判も
道端で摘んだ花を活けようとする心情も…
複製できない「一回性の問題」として捉えるなら
その一瞬は永遠であり
私たちにとって かけがえのない財産だと感じます。

私ごとですが
30年以上前に「戦場のメリークリスマス」を劇場で鑑賞して以来、
今では簡単に手に入るDVDを敢えて観ないようにしていたのは
初見で得た感動を
上書きしたくないという思いがあったのだなと…
今更ながら気づいています。

そして タロットもまた
展開図の複製が限りなく不可能な一回限りのものとして考える時、
その札が開示したメッセージに
慈しみの心で対峙せずにはおられません。

複製技術の多大な恩恵の中にいて
『一回限りのものとして慈しむ』
その心持ちを
タロットから感じていただければ幸いです。

 

「async」坂本龍一 :発売元 commmons/エイベックス・ミュージック・クリエイティヴ株式会社 2017.3.29