「あれ?今、一瞬なにかおきた?」
『Snow Man』3rdシングル『Grandeur』のMVを拝見しているときのことです。
後方3列目右ポジションの渡辺翔太さんが、一瞬静止したのち、目の錯覚かと思うほどの速さで、皆と合流するダンスを披露されました。
それは時間にすると、わずか2秒のシーンでした。
後に、そのシーンは
渡辺翔太さんのソロボーカルの箇所だと知りました。
私は、歌も踊りも全くできないので
素人判断で
渡辺翔太さんは、「歌に集中するため」静止されたのだろうと解釈しました。
しかし、バレエダンサー・山本開斗氏の解説をお伺いする機会があり、私の解釈は大きく変わりました。
山本開斗氏は、MV初見で
渡辺翔太さんの静止したシーンを
「ミスったのかな?」と思われたそうです。
クラシックバレエの舞台演出では
「前に立つ人の踵に揃える」ことを意識しながら踊ることが習慣となっているため、フォーメーションに対し、常に敏感になっているご自身の見解を、まずご説明されました。
そのうえで、MVの再生を停止して確認すると、渡辺翔太さんの静止した状態は、綿密に計算されたうえでの構成だったことがわかったそうです。
そして、山本開斗氏は
渡辺翔太さんの
静止した状態から体勢を立て直し
皆のフォーメーションに合流するための
“カウントをとる技術”が
いかに難易度が高いかを語られました。
厳密には、そのシーンは
”2秒間に2回”
静止と合流を繰り返して構成されています。
それは例えるなら
「車のエンジンをかけた瞬間に、時速100kmを出すほどの瞬発力」だそうです。
演出だけを考えるなら、フォーメーションを揃えることが望ましい。
ダンサーの持久力を保つためには、踊り続けながら合流することが望ましい。
しかし『Grandeur』では
フォーメーションを崩してでも
渡辺翔太さん個人しか持ち得ない美声と
“瞬発力”を発揮するシーンを演出に加えた。
しかもセンターではなく
3列目というポジションの
観客席から認識されない可能性のある演出方法で。
渡辺翔太さんの静止は
私の解釈していた「歌に集中するため」などと生やさしいものではなく、歌もダンスも同時に披露するための、”瞬発力”温存のシーンだったのです。
素人の私も
プロの山本開斗氏も
渡辺翔太さんの
わずか2秒の、静止と合流の場面で心を動かされた。
きっとそこには
演出・振付・声楽・衣装・映像・編集・音響・照明・美術など、作品の創造に携わる『ものづくり』の職人さんのこだわりが集約されていたからに相違ありません。
そこから私は、タロットの
「見えないところでこそ、心を尽くす」という意味の札を想起しました。
「2秒しかないから」
「後方3 列目だから」
という、考え方ではない。
「2秒がなければ、次に繋がらない」
「3列目がなければ、センターが成り立たない」という
『ものづくり』の職人さんの
考え方あってこそ
人の心を動かす作品を
創りあげることができたのではないでしょうか。
精度にこだわり
細部の調整をして
工夫を凝らす
『Grandeur』創作に関わった
全ての職人さんの想いが
2秒から伝わってきます。
もちろん
それを体現できる渡辺翔太さんも然り。
その姿は
わずか2秒が
『Grandeur』を支えているという誇りに満ちています。
「見えないところでこそ、心を尽くす」という誇りがあれば
2秒であろうと
3列目であろうと
例えそれが、観客席から認識してもらえなかったとしても
自分自身の最高水準を発揮することだけに集中できる。
その結果が
人の心を動かすパフォーマンスとなる。
その姿は
華やかなステージ上だけでなく
私たちの日常も
見えない誰かの想いで
構築されていることに気づかせてくれます。
ささやかな日常を
自分の誇れるものにできると思えれば
今日一日
見えないところでこそ、心を尽くそうと、渡辺翔太さんの2秒は思わせてくれます。
『Grandeur』:『Snow Man』CD.DVD 2021 AVEX ENTERTAINMENT INC. MANUFACTURED BY AVEX ENTERTAINMENT INC. 2021.01.20
Johnnys’ Official Snow Man Calendar2022.4-2023.3
2022.03.09 初版第一版発行・著者:Snow Man ・発行所:株式会社小学館
山本開斗:バレエダンサー・Ballet Frontier所属。YouTuber 『ヤマカイTV 』