「私が初代選曲家を名乗ったのは、このスネークマンショーとギャルソンのパリコレ20年選曲したことが理由です。因みにスネークマンショーは音楽選曲番組です。決してお笑い番組ではございません」
選曲家 音楽プロデューサー:桑原茂一
先日、私がInstagramに投稿した『スネークマンショー/YANKOMARITAI』について、桑原茂一さんからご丁寧なコメントをいただきました。
私は椅子から転げ落ちるほど驚いて、友人に支離滅裂なメールを送ってしまったほどです。
私は音楽に疎く、音楽について語れる言葉を持っていません。
しかし、桑原茂一さんからいただいた貴重なメッセージを、私なりにがんばって解釈させていただきます。
桑原茂一さんは『Men’s BIGI』ファッションショー、『エドウィン』店舗BGMを担当され、1977年からは20年もの長きにわたり『コム・デ・ギャルソン』パリコレクション・ファッションショーの選曲を担当されました。
1982年『ピテカントロプス・エレクトス』を原宿にオープンされ、80年代東京の文化に大きな影響を与えられました。
1986年。日本音楽選曲家協会(略称:音選協)を設立、発起人代表を務められます。
「選曲家」という分野を確立され、周知のために貢献されました。
そういった桑原茂一さんの選曲家という経歴を念頭に、YMO『増殖』を改めて拝聴して感じたことは、スネークマンショーは哲学だということです。
例えば、日本の哲学者らは「厳粛な式典の最中に、チャンチキおけさを踊らない方法」
「床の間を有効活用するために、寝具を利用する方法」「窓ガラスを曇らせる方法」など、荒唐無稽と思われることを「いかに実践できるか?」あらゆる手段を模索して大真面目に語られています。
私はタイトルだけで笑ってしまうのですが、決してお笑いのための論文ではありません。
そこには「規則・しきたり・体制・統率・道徳・倫理」を遵守することが善であるという価値観を一瞬で変えてしてしまう発想があります。
私はスネークマンショーにその構図をみるのです。
先の「チャンチキおけさを踊らない方法」が笑いを獲得するために存在していないように、「警察官にドアを開けさせる方法」「日本語を理解できない外国人に落語を理解してもらう方法」など、スネークマンショーがお笑い番組ではないと語られる所以だと理解できました。
そして、それらの構図を活かすために最良の音楽とは何か?
厳粛でドラマティックな音楽であればあるほど、日常生活とのギャップに混乱が生じます。
逆説的に、音楽を活かすためにどのような構図を介在させると最良か?
そういった視点でスネークマンショーを拝聴すると、桑原茂一さんの作品は、哲学的にクリティカルな視点が不可欠だとようやく私は気づいたのです。
私にはまだまだ解釈できていない作品があります。これから経験値を積んで初めて理解できる作品もあるでしょう。
一生をかけて読み解いてゆく作品であることもまた、スネークマンショーが哲学であると証明されているように思うのです。
Yellow Magic Orchestra
:『増殖』MULTIPLIES
発売日:1980.06.05