『迷雲を払いて真月を見よ』
(意訳:心の目を曇らせている迷いを取り除いて、目には見えないけれど、必ずそこにある真実を見つめなさい)

 私がタロットを読むときに、つねに心掛け大切にしている、東洋大学創立者・井上円了先生のお言葉です。

 19世紀後半から20世紀初頭にかけて、ヨーロッパの産業革命以降、魂や幽霊など、不可視の存在を証明するために、科学者・医者・宗教家らが、さまざまな実験を行いました。その実験結果の不明瞭さから
「反論が証明できる理論」=科学
「反論が証明できない理論」=非科学
の考えかたが生まれました。

 日本でも、明治の新しい時代が到来し、国策として日本を近代化へと進めてゆく政策がとり行われました。
そのなかで、哲学による日本人の新たな「ものの見方・考え方」が不可欠であると考えた井上円了先生は、西洋哲学を積極的に取り入れながら、仏教思想の中に東洋哲学を発見されました。

また、井上円了先生は、「妖怪」「幽霊」「魂」「占術」など『一切の妖しきものの正体を究明』するため、全国各地の「迷信」を、自然科学・民俗学の領域で解明され、論文として『妖怪学講義録』という研究書にまとめられました。

 しかし、井上円了先生の研究書のなかで「妖しきもの」を否定から肯定に変えられた記述が、いくつかあります。

そのひとつに「占術」があります。
「占術」に根拠がないことを証明するため、研究を重ねるうちに、なんと井上円了先生みずから『哲学占い』を作ってしまわれたのです。
それは、「何かを反論するためには、それを徹底的に知っておかなければならない」という考えからきています。
井上円了先生は、占術を研究・解剖してゆく過程で「人を惑わす占術ではなく、心を養う占術をつくろう」と決意されたのだと拝察いたします。

「占術は、天下国家の恥辱である」
「インチキ占い師の、愚民を誑惑するための妄語」と酷評されていた厳しい論文が、次のお言葉のように変貌を遂げてゆきます。

「世の識者がこれを見て、いかなる笑評を加うるも、余があえて辞せざるところなり」
(意訳:私の『哲学占い』が、世の中の識者から、どんなに笑われて酷評されようが、私が全くためらうところではない)

『哲学占い』の発刊にあたっては、かつて発表した論文とは真逆の理論で、強い信念と決意の言葉が添えられています。
すでに発刊された研究書の論文を、前言撤回するほどの情熱とは、一体どんなものだったのか私は想像するのです。
私は、この一説を拝読するたびに、励ましと勇気をいただくのです。

 明東館では、タロットを通じて、井上円了先生が生涯課題とされた「ものの見方・考え方」の心を養うお手伝いをさせていただいています。
皆様がよりよい未来を選択していただけるよう、明東館のタロットがお役に立てれば幸いです。

 

原文では【朴筮】(ぼくぜい)・【うらなひ】と表記されている記述は「占術」「占い」と書き換えさせていただきました。

井上円了 1858318日(安政524日)〜1919年(大正866日)
『妖怪学全集 』第11999331日第1刷発行・第21999331日第1刷発行・第31999430日第1刷発行・第4 2000320日第1刷発行・第5 2000510日第1刷発行・第6200165日第1刷発行
編者・東洋大学 井上円了記念学術センター :発行者・芳賀 啓:発行所・柏書房株式会社