「有楽町のガード下で、辻占い師をしたいです」

ある取材で明東館の「夢」についてのご質問をいただいたとき、そうお答えすると、記者の方は「まさかの無店舗ですか?」と非常に驚かれました。

その驚かれる様子は、あるバラエティ番組で
有吉弘行氏が「辻占い師は、なんであんな凍えそうな寒い中、街角に座っているんだろ?温かいスープを持っていってあげたくなるよね」とお気遣いされながら語られたシーンと重なります。

私なりの答えは
「これしかできない」から。

「これしかできない」
と言える人は
その道で生きてゆく一択の人。
言い換えれば
迷いがない人。

「看護師しかできない」
「設計しかできない」
「編集しかできない」
「家事しかできない」
「塾講師しかできない」
「音楽しかできない」
「アスファルトで道路を作ることしかできない」
お客様の
「これしかできない」という言葉を聞くたびに、私もそうありたいと願います。

広く、何かを器用にこなせないけれど
「これしかできない」から
精度を上げようとするし
技術を磨き続けることは怠れない。
最高水準を追求すれば
執着もするし
こだわりも持ち続ける。
誤魔化しなどありえない。

私も
「これしかできない」から
タロットを読んでいます。

タロットを読む最中に
お客様の
頰の血色がよくなり
瞳が輝く瞬間を
何度も拝見しました。
これは、私の力ではなく
タロットの創作者の力です。

主人公は、あくまでタロット。
私は、タロットの創作者のメッセージを日本語に翻訳するだけです。

その何者でもない私が
偶然、誰かに見つけてもらって
出逢い
ひととき言葉を交わす。
そのひとときで
誰かの
何かが変わるなら
その貴重な瞬間に立ち会えた私は
幸せだと思うのです。

令和の時代を迎え
偶然、道ばたで
何かを見つけることのほうが難しい。
現実問題として
露店商の許可を取るのは難しい。
ネットがなければ
人と人が繋がることも難しい。
緊急事態宣言下で
人に埋もれるほどの環境は難しい。

あらゆる場面のデータ化が日常となり
偶発性・一回性は
もはや経験することのほうが難しい。

しかし、このような時代だからこそ
偶然の出逢いのある
ガード下で
街ゆく人に埋もれることが
私の夢でもあるのです。

「これしかできない」ことが
どこまで通用するのか
見極めたいと思う場所が
私にとって聖地の
有楽町のガード下なのです。

他者には理解してもらえなくても
「夢」だと言えるものがあるなら
今日一日を生きる糧になります。

そう遠くない未来
有楽町のガード下で
タロットを読む夢が叶いますように。

 

『柳花堂』:東京都新宿区新宿3丁目17番7号 紀伊國屋ビル1階・昭和23年(1948年)開業-平成25年(2013年4月15日)閉店。

『Pictorial Key to the Tarot』
Arthur Edward Waite 1857.10.02-1942.05.19
Pamela Colman Smith 1878.02.16-1951.09.18

『SMITH-WAITE TAROT DECK』CENTENNIAL EDITION
U.S. Games Systems,Inc.
Stamford,CT06902 USA