青い宝石が落ちているような
不思議な光景を
いつもの帰り道でみつけました。

それは
雨の路面に映るLEDの街灯で
雨があがれば
夜が明ければ
幻のように消えてしまう光景。

いつもの景色が輝いてみえる瞬間に、私はいつも、手塚治虫先生の『ブラック・ジャック』第34話「目撃者」を思いだすのです。

◆『ブラック・ジャック』第34話「目撃者」あらすじ。

新幹線のホームに放置された鞄。その中に仕掛けられていた時限爆弾が爆発し、多数の死傷者がでる大規模テロ事件が発生しました。
事件の数分前、鞄をホームに置いて立ち去る、不審人物の姿がありました。
その不審人物の一連の犯行を目撃していた売店の女性店員は、被爆の衝撃により両目を失明してしまいます。

警察は、テロ事件容疑者を3名にしぼり「面通し」を残すのみになりました。事件担当警部は「面通し」に不可欠な、唯一の目撃者である女性店員の証言を得るため、「彼女の失明した目を、みえるようにしてほしい」と、”奇跡の腕”ブラック・ジャックに、手術の依頼をします。

しかし、ブラック・ジャックは、過去に同様の手術をおこなった際、「視力が5分間しか回復しなかった」前例があるため、手術の依頼を断ります。

「医師ってのは警部さん
ひとをなおすために手術をやるんだ。
5分たって
どうせ失敗するとわかってる手術を
わざわざやるバカがいますかね。
患者だってぬか喜びですよ‼︎
ごめんですね」
「患者がかわいそうだよ。
2度も(失明の)くるしみをあじわうなんて」
と、医師としての見解を伝えます。

それでも、大規模テロ事件の犯人を、どんな手段を使ってでも検挙したい警部は
「その5分が必要なんです!」と、捜査費用の3,000万円を全て、手術費用に投じても構わないと説得します。
ブラック・ジャックは3,000万円という金額に、あるプランをひらめかせ、手術を了承します。

手術の終了後、女性店員は顔面を覆う包帯のすきまから、左目だけで容疑者ら3名を確認し、ホームにいたひとりの人物を特定します。
拘留され連行される犯人を見送ったあと、女性店員はブラック・ジャックに懇願します。

「おねがい。
また見えなくなるまでに
せめて外のけしきをみたいんです」

女性店員の希望を叶えるために、ブラック・ジャックは彼女のベッドを窓のそばまで移動させます。
窓の外には、いつもと変わらぬ街の景色が広がっています。

「…きれいね。けしきって…
あたし、一生わすれないわ…」
彼女は限られた5分間で
目のみえる尊さを一生忘れないと、自分に誓うのです。

その後、ブラック・ジャックは、警部に「3,000万円は彼女にやってください。約束ですぜ」
と言い残して、姿を消します。

『ブラック・ジャック』第34話「目撃者」は、子供の頃から現在に至るまで、さざ波のように、私に影響を与え続けてくれます。
「目撃者」を拝読して以来
いつもの
あたりまえの景色の中にこそ、輝きが発見できるのだと感じるようになりました。
いつもの
あたりまえの景色の中にこそ、輝きが発見できる人でありたいと思うようになりました。

今日、雨の路面に映るLEDの街灯に、出会えた瞬間を見逃さなくて幸いだと感じました。
今日、スマホに写真を残したくなるものに出会えたなら幸せ。

雨の中で足をとめた5分間。
その5分間の積み重ねが、人生をかたち作っているならば、その5分間を大切にしたいと思えてきます。
そして、子供の頃の私に「40年後には、カメラを持ち歩かなくても、シャッターチャンスを逃さない時代が来るよ」とも教えてあげたくなるのです。

私たちがスマホをかざすとき、それは幸せな5分間なのかもしれません。
苦しくて
つらいとき
あえてスマホをかざしてみる。
スマホをかざしたその先には、私たちが幸せを感じることのできる被写体が存在しているはずです。

その5分間を、手に入れるための行動を起こせること。
スマホに残したいほど、心を動かせるものがあること。
スマホには残らなかったけれど、「一生忘れない」と言えるものがあること。
これらこそ
実はとても幸せなことなのだと
「目撃者」は、今日も教えてくれます。

 

『ブラック・ジャック』第34話「目撃者」収録 第4巻:昭和50年(1975年)3月30日初版発行・著者:手塚治虫・発行所:株式会社 秋田書店