自動販売機の缶コーヒーのボタンを
2回目
3回目
4回目を押しながら
Hさんは、涙があふれてきたそうです。

昨秋『鬼滅の刃』と『ダイドードリンコ』缶コーヒーのコラボパッケージが発売されました。
Hさんは、全28種類の「鬼滅缶」のうち、自動販売機限定の8種類を集めるため、福山市内に設置されている『ダイドードリンコ』の自動販売機を、順次チェックしてゆかれました。

しかし、「鬼滅缶」は人気商品で、どこの自動販売機も売り切れ。
Hさんは、自動販売機の売り切れランプを確認するたび、何度もがっかりされました。

そんなある日、Hさんは箕沖で売り切れランプが点灯していない自動販売機を発見されました。
それだけで胸が高鳴り
「手に入れる商品が最後で、次はもう売り切れかも」
という不安も頭をよぎりながら
恐る恐るコインを入れ
1回目のボタンを押しました。

「よかった。まだ売り切れじゃない」
売り切れランプが点灯しなかったことに安堵して、Hさんはもう一度コインを投入しました。

「よかった。まだ売り切れじゃない」
その作業を繰り返してゆく過程で
Hさんは、気づきました。

冨岡さん
胡蝶さん
煉獄さん
時透さん
伊黒さん
不死川実弥さん
炭治郎
禰豆子
8種類の「鬼滅缶」が規則性をもって補充されていることに。

補充用ダンボール1箱には30缶が詰められています。
8種類の商品に規則性をもたせるよう補充するのは、通常の作業に加え、絵柄を確認する手間が必要です。

Hさんは、『ダイドードリンコ』メンテナンス担当のかたが
「鬼滅缶」を求めるファンに喜んでもらうために
8種類の商品が被らないよう
時間と労力を費やしてくださったことを理解されたのです。

その結果
箕沖の自動販売機だけで
Hさんは、8種類の「鬼滅缶」を全て手に入れることができたそうです。

タロットにも
「見えないところでこそ、心を尽くす」
「見えない誰かのために、時間と労力を費やす」
という意味の札があります。

そこには
誰にも知られないところで
心を尽くして
見知らぬ誰かに
喜んでもらうことの尊さを教えてくれます。

ささやかな日常の中で
見知らぬ誰かのために
心を尽くしてくださる人がいる。

それに気づいて
幸せになれる人がいる。

そして
そのエピソードを伺い
幸せな気持ちになれる人がいる。

『ダイドードリンコ』のメンテナンス担当のかたの
想像力と思い遣りのある行動が
少なくとも
Hさんと私の二人を幸せな気持ちにしてくださいました。

「鬼滅缶」の
企画
設計・デザイン
広告・キャッチコピー
製造
梱包
輸送
メンテナンス
多くの人達が関わって
今、私たちが手にするものがある。

Hさんの、その
想像力と思い遣りもまた
缶コーヒーが
投入したコインの価値より多いことに気づかせてくれます。

誰にも知られないところで
見知らぬ誰かに
喜んでもらえるよう心を尽くす人がいる。

見知らぬ誰かの存在を
こんなにも
笑顔で受けとめてくれる人がいる。

その
笑顔の連鎖を
見せてもらえることを
私は幸せだと思うのです。